07:昼休み




青い空。
白い雲。
絵に描いたような晴天の中の食事という、この学校で一番太陽に近い場所で、なんとも贅沢な時間を俺達は堪能していた。
星空を眺めることは多々あるけれど、そういえば、こんなにのんびりと空を見上げるのは久しぶりかもしれない。故郷よりももっと鮮やかで、澄み渡った色に、心の中が洗われていくような気がする。
昼の空というのも、悪くない。
「そういえば、星野、部活は入るのかい?それとも、やっぱり仕事が忙しいのかな」
「部活?」
もぐもぐと昼飯を口に運んでいた俺に、穂高が突然そう言った。
「そう。うちはほとんどの生徒が部活動に所属してるからね。君もアイドルとはいえ、学生なんだし、大事なことだと思うよ」
穂高はにこにこと「君ならきっとどこも歓迎してくれるよ」と笑った。
(部活か…)
今まで頭になかった選択だ。
(でも、そうだよな。学校に入り込んで、その後なにするかが大事だもんな。ただ授業受けて帰るだけじゃなんにもならねーし)
ごくん、と嚥下して「どんなのがあるんだ?」と尋ねると、穂高は嬉しそうに生徒手帳を広げた。
「うちは結構数がある方だけど、やっぱり大きく分けて、運動部か文化部だね。運動部なら、アメフトやサッカーは全国クラスで強豪だし、他も人数は多いんだよ。文化部もパソコンとか天体望遠鏡とか、そういう備品は充実してると思うし。まずはどっちにするかだね」
「うーん・・・」
どちらかといえば、体を動かす方が好きだし得意だ。汗を流しているそのときだけは、なにも考えなくていいから気分転換にもなるし、かなり心が惹かれる。
(でも、それって情報収集じゃないよな。本当にただ学校に通ってるだけになっちまう)
かといって、芸術に興味があるわけでもなく。天体観測は好きだが、べつに部活動でなくたって星は見れるし。
大気みたいに読書が好きなわけでもないし。
夜天みたいに絵の才能があるわけでもないし。

・・・だめだ。全然思い浮かばない。

こんな時は他人に訊くのが一番だと、俺は穂高に助けを求めた。
「・・・穂高はどこに入ってんだ」
「僕?僕は新聞部だよ」
「しんぶんぶ〜?」
意外なような、そうでないような。まあ運動部ではないとは思ったけどさ。
「じゃあお前が校内新聞書いたりすんの?」
「まさか!」
ぶんぶん手を振って、「一年生の僕らがそんなこと出来るわけないよ」とあっさり否定した。
「先輩のサポートがほとんどだね。取材とか、写真とったりとか。あ、でもたまにミニ記事書かせてもらうこともあるけど、ほんとにちっちゃな記事だよ。購買部の人気パンランキングとか」
「へー・・・」
すると、俺達二人の会話に、おだんごが突然割り込んできた。
「あ〜!あのランキング作ったの穂高君だったの?」
「うん、そうなんだ」
「あれが出てから人気上位のパン毎日売り切ればっかだったのよ。もう悔しいったら!でもでも、ほんとに美味しいものばっかりだったから、食べるの楽しみだったんだ!そっかぁ穂高君だったんだ」
キラキラとした瞳で見つめられて、穂高は照れたように頬をぽりぽり。
心なしか、顔も赤くなっている。
(おや)、と俺はその様子をじっと見た。
おだんごは、取材について熱心に訊いている。
「あれはね、購買部のおばちゃんと、あと生徒何人かにリサーチしてから、自分でも食べてみたんだよ。だから僕の好みもちょっと反映されちゃったけど」
「え〜!食べたの!?全部!?」
「さすがに全部は無理だけど、まぁ、10個くらいかな」
「いいなぁ〜」
よだれが出そうな勢いで、おだんごはうっとりと穂高(が食べたであろうパン)を見つめる。
穂高は、真っ赤になってた。
俺はもう、内心にんまり。
こんな面白いこと見逃す手はないっつーかさ。
「なぁ、穂高。次はどんな取材すんの?」
「え?」
「俺も一緒についてくからさ」
ぱちくりと目を瞬かせてから、穂高は驚きの声をあげた。
「ほんとに?それって新聞部に入ってくれるってこと?」
「んー、それはまだ保留。とりあえず、体験入部っつーの?お前にくっついていって面白かったら考える」
「大歓迎だよ!」
がしっと俺の両手を握って、穂高はにこにこ。
俺の手を握ったまま、穂高はすたすた屋上端のフェンスまで歩いていく。見下ろしたグラウンドで生徒達がボールを蹴ったり投げたり思い思いに活動していた。
5月の爽やかな風の中、学校の周りの木々が緑に光る。本当にのどかで、平和な景色だ。
グラウンドのやや隅っこにある、小さな建物を穂高は指差した。
「あれはね、共同の女子更衣室。次の取材対象だよ」
「はぁ?なんで女子更衣室なんか」
「それはね」
声をひそめて、内緒話でもするみたいに口元に右手をあてる。
「もうすぐ三年の部長が引退するんだ。だから最後に、今までやりたくても出来なかった取材をするってことになったんだ。ほら、部長はオトコだから女子更衣室には一度も入ったことないだろう?」
「そりゃ普通は入れないだろ」
「だから高校生活最後の思い出に、女子が着替えてるところを撮らせてくれって言うんだよ」
しみじみと、穂高は真面目な顔でそう言った。
「・・・それマジで言ってんの」
「大マジさ。特に、女子新体操部に並々ならない執着があるみたいでね。そこを重点的に取材したいんだって。女子に大人気のスリーライツ星野が一緒ならきっと女の子達も快く承諾してくれると思うよ」
「さっきの話、無かったことにしてくれ」
くるりと身体を反転させた俺の腕をがしっと掴んで、「うそうそ冗談だよ!」と穂高が必死で俺を引き留める。
「そういうつまんねー冗談言うな!」
「ごめんって。でも、女子更衣室の取材はホントだよ」
楽しそうに談笑している愛野たち女子をチラリと視界の中に入れながら
「最近、噂が流れててさ。それが本当にあったことなのかどうか、僕らが検証するんだ」
「うわさ?」
さっきと一転して、真面目な顔つきになった穂高はこくりと頷く。
「詳しくは放課後話すよ。ちょうど、今日は部会でその件についての会議だからね」
「へぇ・・・了解」
なんだろう。さっきふざけてた分、急なシリアス顔に逆に気になった。
まあいいや。どうせ放課後わかるんだし。
(おっと忘れてた)
「おーい、おだんご!」
「なぁによ」
屋上の端から、真ん中の女子の輪に声をかける。ボイストレーニング(略してボイトレ)で鍛えた声量で、ちょっとした距離でも苦もなく声は届いた。
「お前どうせ暇だろー?放課後付き合え」
「はぁ?なんであたしが」
おだんごは眉をつり上げる。
「穂高の取材に付き合うんだよ。もしかしたら購買部のパン食べれるかもだぜ?」
「いくっ!!」
「ちょ、ちょっと星野・・・!」
元気いっぱいのおだんごの返事に、慌てたように穂高は俺の肩を掴む。
「なに嘘言ってんの、購買部の取材なんてやらないよ?」
「わぁってるよ。だから「もしかしたら」って言っといたし」
「だいたい、どうして月野さんも同行させるんだよ」
「だってお前、その方が嬉しいだろ?」
「な・・・!なに言い出すんだよ!」
「照れるな照れるな」
ぽんぽと、俺は肩を叩く。穂高は肩を落としてため息をつき、「そういうんじゃないよ」と呟いた。
「今回の取材はね、女子更衣室で奇妙なことが起こるっていう噂を検証しにいくんだ。結構危ない内容もあったから、女の子の同行は危険なんだよ」
「危険って、なにも命にかかわるものじゃないだろう?」
「いまのところはね。だけど、なにが起こるかわからないし」
随分と物騒な話だ。
だけど、大丈夫だろうと、俺は軽く考える。万が一なにかがあったとしても、おだんごひとりくらい守る自信はある。
所詮は怪談レベルの事柄だ。妖魔でも出てこない限りは、問題はない。
「俺がついてるんだ。なにが起きても大丈夫さ」
「・・・まったく」
ちらりと、穂高はおだんごを横目で見て、そして何かを考えこむようにして一瞬の間をあける。

そして、ぽつりと呟いた。


「星野、月野さんから絶対に目を離さないでね」



















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