襲来





最高潮に暑かった気温も、すこしだけ収まってきた気がする日没前。撮影は順調。俺達はさっきストーリーで一番の見せ場を撮り終わったからしばらくは出番待ちだ。
撮影現場は騒がしくて、俺たち三人はスタッフが呼びに来るまでロケバスの中にいることにした。
ロケバスの中で一息ついた途端に、大気は口を開く。
「今後の私達の行動について、話したいことがあります」
大気の一言で、軽い雰囲気が消え去った。それがただたんに芸能界での活動についてじゃないってことは、俺達にもわかってる。
ぴんと張り詰めた空気の中で、大気は目を閉じる。
「私達はもっと、今まで以上に積極的に存在をアピールした方がいいと思うんです」
「…今まで以上……」
スケジュールの凄まじさを考えてだろう、辟易した夜天が思わずといった感じに呟いた。
なにせ今でも「しんどい」「ありえない」「もう無理」のオンパレードを口にしてるくらいだ。
「これ以上仕事増やしてどうすんの。もういっぱいいっぱいだよ、それに十分僕らは名前を知ってもらえてると思うけど?」
案の定、苦情を申し立てる。しかしそこは大気。あっさりと斬った。
「まだ十分ではありません」
まあ…スリーライツ知らない奴には俺も会ったけどな、ついさっき。
けどあれはレアなケースだと俺も思うぞ。
「訳を聞きたいな。なんだって急にそう思ったんだ?」
と、俺は大気に尋ねる。
「時間がありません」
「どういうこと?」
夜天は眉をひそめた。
大気は組んだ手の甲の上にあごを乗せた。
「プリンセスが、この星にいるのは間違いありません」
夜天が、静かに大気を見た。俺達二人の視線を受け止めながら、大気は自分の頭の中を整理するように、ゆっくりと口を開く。
「消えてしまいそうなくらい微弱だったプリンセスの気配が、この星に来てからはっきりと感じるようになりました。そして星野、あなたは以前プリンセスの夢を見たと言っていた。今までそんなことはなかったのに、この街に着いた途端です。それはプリンセスの発している波動を受け取ったからではないでしょうか」
たぶん、口にしながら思考を整理しているんだろう。疑問系で話しながら、俺の返事なんて期待していない。
「プリンセスはいます。それも、近くに」
「この街にいるから僕らが探しに動くっていうのはわかるけど、じゃあ時間が無いっていうのはどういうこと」
「ヤツがきます」
空気がしんと張り詰めた。
「…夜天、あなたも感じたはずです。またひとつ星が消えた瞬間を。もう、この銀河の中でヤツに支配されていない星なんて、数えるほどしかありません。そのほとんどが太陽系の惑星です。そんな状況で、星が消えたということは…」
「太陽系が狙われてるって事、か」
ぽつりと呟いた俺に、大気は静かに頷いた。ここまで説明されたら、いくら俺でもわかる。
「もう、ヤツの手はすぐそこまで来ているに違いありません。こんなにも生命力に満ち溢れた星をヤツが見逃すはずが無い。もしかしたら、すでにこの星の中に潜り込んでいるのかもしれません。ならば、一刻も早くプリンセスを探し出さなくては、また…」
苦しげに眉根を寄せて、また、と大気は呟いたっきり、沈黙した。
大気の言いたいことは俺も、夜天も、痛いほどにわかっている。わかるから、なにも言えなかった。
(怖いんだ)
口に出したら本当にそうなってしまう気がして、俺達の希望すべてが消えてしまうような気がして、怖くて誰も何も言えなかった。
沈黙が三人を包む。プリンセスに逢える可能性と同時に、大きな災いが降りかかろうとしていることもわかってしまって、やるせなさに全身を包まれた。どこまで逃げても立ちふさがる巨大な闇に、俺達は希望の光をまだ見つけられないまま、立ち向かおうとしてる。
今からこんな弱気じゃヤツに立ち向かうなど到底無理な気がして、重苦しい空気を一蹴しようと、俺はわざと明るい声を出した。

「要はプリンセスを見つければいいんだろ?奴らより先に。上等じゃン!」

夜天と大気が、顔を上げる。そんな二人に、俺は親指をびしっと立ててニカッと笑った。
ちょっと演技臭かったかもしれないが、そのへんはスルーしてもらいたい。

「大丈夫。プリンセスは見つかるさ、絶対に。そんでもって、みんなで帰ろう――― 俺たちの星へ」

大気は苦笑して「あなたらしいですね、星野」と、言った。
夜天は猫みたいな瞳を細めて「ほんとうらやましいよその性格」と、肩をすくめた。
三人とも、想いは同じだ。諦めずに生きていれば、きっと、希望は見えてくる。
俺達には未来があるんだと、力を込めて言える。



「さてと、じゃあ早速具体的に作戦を、……ッ!」
一番先に『それ』を感じたのは、俺だった。次いで、夜天、大気も気付いて顔を強張らせる。
背筋がぞわぞれして、無数の足を持った虫に背を這われているようなおぞましさ。震えを押さえ込むようにして、思わず自分の肩を抱き締める。ざらついたこの不快感。
知っている。俺達は、この感覚が何かを知っている。
そして、その場にはなにが起こっているのかも。


「…噂をすればってやつだね」


敵意に目をギラつかせて、夜天はこう言った。



「ファージだ」







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